こんにちは、神戸のベスト相続相談協会の税理士@岩佐孝彦です。

去る12月8日付の新聞紙上で久しぶりに大きな相続税の
申告漏れの記事が掲載されました。
「トステム創業者長女、遺産110億円申告漏れ 国税指摘」
住宅建材大手トステムの創業者で2011年に死去した、
住生活(現LIXIL)グループの元会長、潮田健次郎氏。

そのご長女様が東京国税局の税務調査の結果、
過少申告加算税を含む追徴税額は約60億円。

ただ潮田ファミリーの名誉のために申し上げますが、
これは仮想隠ぺい行為的な脱税事件ではありません。

見解の相違によるものでありますので、
くれぐれも、誤解なきようお願いします!

本件では、通達に基づく申告はなされています。
それなのに…

国税から「伝家の宝刀」を抜かれてしまったのです。

記事によれば、本件の経緯は以下の通り。
▼潮田氏は生前、

住生活グループの筆頭株主として
所有していた株式1347万株を売却。

▼そこで、220億円を得る。

(まさに上場企業の創業者利益を享受ですね)

▼この220億円で金融資産を購入。

▼その金融資産を同族の不動産管理会社に現物出資。
(非上場株式約790株を発行)

▼こうした一連の取引により、

上場株式220億円が、時価のわからない資産として、
非上場株式に変換されることに。

▼この取引後に潮田氏ご逝去、
ご長女様が非上場株式を相続。

▼ご長女様は、財産基本評価通達どおり、
非上場株式を約85億円と評価し、申告する。

▼税務調査の結果、国税は約110億円の申告漏れを指摘。

 

日本の99.7%を占める、
中小企業の自社株(非上場株式)の場合、

時価がわかりませんので税務上、財産評価基本通達に基づき、
評価することになっています。

大まかに言えば、下記3つの方式があります。
▼類似業種比準方式

⇒ 業種が類似する上場企業の平均株価に、
配当・利益・純資産の3要素を比準させる評価法

▼純資産価額方式

⇒ 当会社の財務内容(資産から負債を差し引いた
純資産)に保有資産の含み損益などを加味した評価法

▼上記2つの併用方式

 

本件の場合、ご長女様は【類似業種比準方式】で評価。

(通達どおりに評価計算を行っています)

報道記事を読む限りにおいては、上場株式売却資金220億円

を現物出資する際にどんな金融資産にしたのかは不明です。

外貨資産? 投資信託? FX?

いずれにせよ、本件の資産管理会社の資産内容は
何らかの金融資産がメインであったと推測されますが、

一般的には、

【類似業種比準方式】の方が【純資産価額方式】より

評価額は下がります。

しかし、本件で国税の見解は、

【財産評価基本通達6】

という“伝家の宝刀”を抜きました。

この通達には、

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と
認められる財産の価額は、

国税庁長官の指示を受けて評価する」

と書かれています。

つまり、いくら通達通りの合法的な評価をしても、
あまりに不自然な取引ついては、

課税当局の権限で否認できるという内容です。

税理士としての私見を申し上げれば、
本件の取引があまりに【短期間】に【集中】して
行われたこと自体が問題であった、

そんなふうに考えています。

本件の取引時期は、

潮田氏がご逝去された、
2011年4月の直前の2010~2011年。

潮田氏は享年85歳。

対策実行タイミングとして、あまりに遅すぎたのか?

課税当局から見ると、
「自分の死期を悟った被相続人が相続税を懸念し、
短期集中であわてて、

上場株式を換金化したうえで、
時価の不透明な非上場株式に変換したのでは?」
と勘繰られても致し方ないかもしれません。
本件は生前贈与をされたわけではないですが、
相続税法では、

生前3年以内の贈与した財産は相続財産に持ち戻しされ、
相続税の計算に組み込まれることになっています。

相続税を心配し、
生前にあわてて何がしかの行動を起こす、

そんな人間心理を課税当局はすべてお見通しなのです…(汗)
本件も被相続人が75歳でいらっしゃった、10年前から計画的

に実行されていれば…

税務調査の結末もひょっとすると、
違ったものになった可能性も無きにしも非ず。

【相続対策も含め、世のすべてのことは前倒し】

がやはり大切、

ということですね。

私どもでは今年も数多くの相続・事業承継対策
のご支援をしましたが、

静岡県から、82歳の経営者と79歳の奥様が
神戸の弊社オフィスまでご来社になられたケースも
ありました。

NHK大河ドラマの「官兵衛」が先日終了しましたが、
徳川家康が豊臣秀吉の死後、こんなセリフを残していました。

「秀吉公は英雄であった。

しかし願わくば、自分が死んだ後の世をどうつくるのか、
ちゃんと考えておくべきであった。」

年明けからいよいよ、相続大増税が始まります。
本件の記事を自戒としたいところ。

誰でもいつか必ず直面する相続。

今から相続対策としてやれることは前倒しでやっていきましょう!

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